3月23日、エジプト・スエズ運河でコンテナ船が座礁し、航路を遮断した。いまなお、復旧のメドはたっておらず、多くの貨物船が運行再開を待っている状態だ。
今回災難に見舞われた船は、世界最大級の巨大コンテナ船「エバーギブン」だ。全長は400メートルに及ぶ。強風と砂嵐による視界不良で船体が押し出され、座礁したとみられている。
現場となったスエズ運河は年間1万9000隻もの貨物船が通行しており、通行したすべての船の重量を合わせると11億7000万トンになる。まさに「ケタ外れ」の運河だが、驚くのはその「通航料」だ。海洋問題研究家の山田吉彦氏に話を聞いた。
「通航料は平均で3000万円強は取られるんですよ。今回のエバーギブンだと、大きさから考えて4000万円くらいだと考えられます」
通航料は船の「重さ」「種類」「リスク」に応じて計算される。たとえば、液化天然ガスを運ぶ場合はリスクが高いので、5000万ほどに高騰する。いったいなぜ、ここまで高く設定されているのか。
山田氏は「中東とアラビア海とヨーロッパを結ぶ航路で、スエズ運河以外をたどるとなれば、南アフリカの喜望峰を進む以外にありません。でも、アラビア海とロンドンを往復する場合、喜望峰を通ると2万1000kmですが、スエズ運河を通ると1万2000kmですむんです。
喜望峰だと、タンカーで行くと10日くらい余計に時間がかかってしまう。タンカーは、燃料代や人件費を考えると、1日1000万円くらいコストがかかります。そうすると10日で1億円ですよね。となるとスエズ運河に5000万円の通航料を払ったほうが、お金も時間も “お得” になるんです。要は、別の航路を進むよりコストが半分ほどですむなら、それなりに通航料を払ってもいいという計算なんです」。
巨額の通航料は、エジプトに大きな利益を与えている。
「満額というわけじゃないですが、基本的にはエジプト政府に入る金額が多くなります。エジプトのGDPの約2.5%がスエズ運河の通航料なんで、まさに国益そのものです。だからエジプト政府もスエズ運河を必死に守りますが、海の事故は自然相手なので、完全には避けられません。であれば、事故後の処理をすみやかにするしかないでしょう」
現在、タグボートでの離礁作業が進められているが、25日、船の所有会社は「離礁は困難を極めている」との見解を発表した。一部報道によれば、運河の航行不能による損害額は、単純計算で1時間430億円にのぼるという。エジプト政府としても、気が気でないはずだ。
船を所有する正栄汽船(愛媛県今治市)は「日本時間27日夜の離礁」を目指す考えを示したが、スエズ運河庁はこの日の記者会見で、離礁や運航再開の時期のめどは立っていないと明らかにした。船を動かす上で大きな阻害要因となっている大量の砂や泥の除去が急ピッチで進められている。
運河遮断に伴って待機を強いられる船舶の数は増え続けており、運河庁の推計では320隻超に膨らんだ。砂嵐の影響とされた事故原因について、運河庁は「技術的・人的ミスの可能性もある」と指摘し、今後調査を進める方針を示した。
コンテナ船は、船首が岸に接触し、土砂にめり込んで動けなくなった。毎時2000立方メートルの砂を運搬できる特別の作業船が投入され、運河庁によると27日までに1万7000立方メートルの砂を既に取り除き、作業は約90%完了したという。
米海軍が支援チーム派遣を申し出
エジプトのスエズ運河で起きた大型コンテナ船の座礁事故で、中東に展開する米海軍が浚渫(しゅんせつ)の専門家からなる分析評価チームの同運河への派遣を計画していることが27日までにわかった。
複数の米国防総省当局者が明かしたもので、早ければ27日にもスエズ運河へ送り込み、離礁を試みる作業で地元当局へ助言を与える見通し。
エジプト政府は同国駐在の米大使館を通じて支援提供を打診され、応じることに同意したという。スエズ運河庁は26日の声明で、米国の申し出を歓迎し、共に作業に臨むことを期待した。
サキ米大統領報道官も26日、エジプト当局への助力の申し出を確認した。米政府は今回の事故で世界のエネルギー市場に悪影響が出る可能性をにらみ、エジプト側と米側がなし得る最善の支援策について協議しているともした。
米軍はこれまでも、世界で災害が発生した際、当該国の要請があれば専門技術を保持するチームを派遣したことがある。
スエズ運河のコンテナ船座礁、日本に責任は?
衛星写真を見てみると、横向きになった船が水路にすっぽりとはまっている。コンテナ船は、愛媛県今治市の正栄汽船が所有し、運航を台湾の会社が行っていたという。
座礁したのは全長およそ400メートルと、東京タワーよりも長い世界最大級のコンテナ船だ。スエズ運河は、幅が300メートルほどあり、座礁したコンテナ船がいかに巨大であるかが分かる。現場を撮影した別の写真には、護岸にぶつかっている船首が写っている。一緒に写っている重機と比較しても、大きさは一目瞭然だ。
地上から見ると、コンテナ船はスエズ運河を遮るように止まっていて、事故の影響で通り抜け不可能になった。普段は非常に船の往来が多い場所だが翌24日、船の姿は見当たらなかった。
運河の入り口にあたる海上では、待機する船で渋滞が発生。GPSをもとにした位置情報を見ても、運河の両側には多くの船が待機している。
1869年に開通したスエズ運河は、アジアとヨーロッパを結ぶ最も重要な航路。川幅は狭いところで200メートルほどあり、1回の通行料は1隻につき、日本円で平均3000万円あまり(約30万ドル)と高額だ。
ただ、横浜・ロンドン間を例に考えると、それまでのアフリカ大陸を回るルートに比べ10日ほど短縮できる(タンカーで時速15ノットの場合を想定)ため、去年はおよそ1万9000隻の大型船が通過している。
海運の専門誌「海事プレス」の小堺祐樹次長も「スエズ運河は世界でも最大級に重要な交通の要所」と事故の長期化への懸念を示している。
「これだけ狭隘(きょうあい)なところで超大型のコンテナ船がはまってしまうことは、なかなか例がなかったと思う。ここが詰まってしまうと他のルートが、アフリカ南端の喜望峰を回る航路しかない」
座礁船を所有していた日本の会社には、どのような責任が及ぶのだろうか。小堺氏は「今後の責任については、まだわからない」と話す。
「実際に船は誰が保有していて、誰が管理して、運行は誰だったのか。それによって、話が全然違ってくる。日本への影響がどのようになっていくのか、正直なところ、まだわからない」
物流の遅れへの懸念も高まっている今回の座礁事故。現時点で、復旧の見通しは明らかになっていない。