有力企業の「流出」
ソフトバンクグループが出資する、韓国の有力電子商取引(EC)プラットフォーマーの“クーパン”がニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場申請書類を提出した。
今回の申請書提出の背景には、韓国で成長を遂げてきたクーパンが、韓国ではなく米国でIPO(新規の株式公開)を行う意図がありそうだ。
株主としては、株価が高値圏にあるうちに流動性の高い米国の株式市場でIPO(新規の株式公開)を行い、可能な限り多くの利得を確保したいと考えるだろう。
一方、クーパン自身も、より良い条件でIPOを実施し資金を調達したいはずだ。
今のところ、クーパンの最終損益は赤字であり、すぐに韓国市場での上場は難しいかもしれない。
ただ、少し長めの目線で考えると、韓国経済の先行き懸念や文在寅(ムン・ジェイン)大統領の政策リスクがありそうだ。
文氏の政策リスクがクーパンIPOに与える影響は大きい。
足許、韓国だけでなく世界各国で物流の重要性は一段と高まっている。
韓国にてクーパンはより便利な物流サービスを提供して成長してきた。
中長期的な展開を考えると、同社のプラットフォームと“Kポップ”などのコンテンツの結合によって需要が生み出される可能性もある。
そのクーパンが米国でのIPOを実施することは、韓国経済にとって“瓢箪から駒が出る”ほどの意味を持つだろう。
韓国経済にとって重要度高まる物流
クーパンの事業戦略のポイントは、独自の物流網構築にある。
ニューヨーク証券取引所に提出した資料(FORM S-1)を見ると、同社は“秋夕(チュソク)”など韓国の人々の生き方や気候の変動に合わせて、日用品から生鮮食品などを消費者に届ける体制を整えた。
特に、注文から24時間以内の“ロケット配送”は多くの人から支持され、2018年3月末からの2020年末までの間、四半期売上高は4倍に増加した。
その背景には、大きく二つの要因がある。
まず、スマートフォンの普及によって世界経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進んだ結果、注文された品物を最終目的地に届ける物流の重要性が世界的に高まった。
2020年11月まで韓国にはアマゾンが進出していなかった。
その状況下、クーパンは他社に先駆けて迅速に配達する体制を整え、EC分野でシェアを獲得した。
ある意味では、アマゾン不在がクーパンの成長を支えた。
2点目は、コロナショックの発生だ。
人々が自宅で過ごしつつ必要なモノを手に入れるために“ラストワンマイル”を支える物流の重要性はかつてないほど高まった。
特に、韓国のように高齢化が進む社会において、ECプラットフォーマーの社会的な責任と重要性は高まっている。
2020年に入り、クーパンの四半期売上高は、前年同期比90%を超える勢いで増加したことがそれを示す。
今後、雇用機会の創出や新しい金融サービスの提供など、韓国経済の安定と成長にクーパンが果たす役割は増大する可能性がある。
本来であれば、ホームカントリーである韓国の株式市場でクーパンがIPOを実施して資金を調達し、事業体制を強化し、その上で海外事業を強化する発想があってもおかしくはない。
文大統領の政策リスクを避けたいクーパン
しかし、クーパンは韓国ではなく米国でIPOを行う。
クーパンはドル資金を必要としている。
その要因の一つとして、韓国の金融システムが抱える潜在的な脆弱性がある。
韓国は慢性的なドル不足に陥ってきた。
2020年3月中旬、コロナショックの発生によって韓国は急激な資金流出に見舞われ、米FRBのドル資金供給によって窮地を脱したことは記憶に新しい。
また、労働争議の激化もリスクだ。
文大統領は労働組合などに有利に働く規制や法案を成立させてきた。
宅配労組でもストライキ実施のリスクは高まっている。
文大統領にとって、社会の多様な利害を調整することは難しい。
その状況下、クーパンが韓国事業をメインに長期の視点で成長を目指すことは容易ではない。
4月のソウルと釜山の市長選に加え、来年3月には大統領選挙が控える。
政権基盤の安定のために文氏は政策スタンスを変えられない。
中長期的には、韓国の出生率は低下し経済は縮小均衡に向かうだろう。
北朝鮮リスクもある。
IPOを実施する企業の経営陣と株主にとって、事業運営に関する文政権の政策リスクは軽視できない。
IPO後、クーパンには海外売上比率を高め、収益源を分散して事業リスクを低減させることがもとめられる。
一部では、IPO実施によってクーパンの株式価値は時価で500億ドル(約5兆円)に達するとの見方もある。
米国を中心に群集心理が高まり株価が上昇していることの影響もあるが、成長期待は高い。
財閥系企業に頼って経済を運営してきた韓国にとって、クーパンの成長への期待は社会と経済に活力を与える重要な要素だ。
そう考えると、文政権は自国経済の成長に重要な要素をつなぎとめることが難しくなっているとの印象を持つ。












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